「手紙」

4月というのに、まだ肌寒く、今年は桜が入学式までに咲かないという、例年にはないことでした。
4月には、入学式・入社式とそれぞれ人生の節目の時期です。
3月には別れがあり、4月には新しい出会いがあります。
人生、生涯別れと出会いを繰り返して人間として成長していくのでしょう。

ここに年老いた方の気持ちをよく表現している「手紙」という題名の詩に出会いました。
介護を職業としている私たちは、改めて毎日の日々の中で原点に返って仕事に取り組んでいきたくなるようなそんな気持ちになる詩です。


        手紙~親愛なる子供たちへ~

  年老いた私が ある日 今までの私と違っていたとしても
  どうかそのままの私のことを理解して欲しい
  私が服の上に食べ物をこぼしても 靴のひもを結び忘れても
  あなたに色んなことを教えたように見守って欲しい
  あなたと話す時 同じ話を何度も何度も繰り返しても
  その結末をどうかさえぎらずにうなずいていて欲しい
  あなたにせがまれて繰り返し読んだ絵本のあたたかな結末は
  いつも同じでも私の心を平和にしてくれた
  悲しい事ではないんだ 消え去ってゆくように見える私の心へと
  励ましのまなざしを向けて欲しい
  楽しいひと時に 私が思わず下着を濡らしてしまったり
  お風呂に入るのをいやがるときには思い出して欲しい
  おなたを追い回し 何度も着替えさせたり 様々な理由をつけて
  いやがるあなたとお風呂に入った 懐かしい日のことを
  悲しい事ではないんだ 旅立ちの前の準備をしている私に
  祝福の祈りを捧げて欲しい
  いずれ歯も弱り 飲み込む事さえ出来なくなるかも知れない
  足も衰えて立ち上がる事すら出来なくなったなら
  あなたが か弱い足で立ち上がろうと私に助けを求めたように
  よろめく私に どうかあなたの手を握らせて欲しい
  私の姿を見て悲しんだり 自分が無力だと思わないで欲しい
  あなたを抱きしめる力がないのを知るのはつらい事だけど
  私を理解して支えてくれる心だけを持っていて欲しい
  きっとそれだけでそれだけで 私には勇気がわいてくるのです
  あなたの人生の始まりに私がしっかりと付き添ったように
  私の人生の終わりに少しだけ付き添って欲しい
  あなたが生まれてくれたことで私が受けた多くの喜びと
  あなたに対する変わらぬ愛を持って笑顔で答えたい
  私の子供たちへ
  愛する子供たちへ


                      看護師 上田 
                     
                      
                            (更新日:2012/4/16)